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仙台高等裁判所 昭和32年(ネ)489号 判決

控訴人 生江喜平 外三名

被控訴人 二瓶功一

主文

原判決を次のとおり変更する。

控訴人らは連帯して被控訴人に対し金一八五、九四〇円三六銭及びこれに対する昭和三一年一二月一一日から完済に至るまで年一割八分の割合による金員並びに金一九四、九四〇円三六銭に対する同年一〇月一一日から同年一二月一〇日までの同率の割合による金員を支払え。

被控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一・二審を通じこれを五分し、その一を被控訴人の負担とし、その余を控訴人らの連帯負担とする。

事実

控訴人ら代理人は、原判決中控訴人ら敗訴部分を取消す。被控訴人の請求を棄却する。との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述及び証拠の提出・援用・認否は、控訴人ら代理人が、本件貸金債務については債権額に数倍する抵当権を設定してあり、被控訴人は抵当権を実行し、弁済を受けることができない場合に限り債務者に対し強制執行ができるけれども、抵当権を実行する前には強制執行が許されないから、被控訴人の本訴請求は失当である。と述べたほか、すべて原判決摘示事実と同一であるからこれを引用する。

理由

(一)  被控訴人が控訴人らに本件貸金として二〇万円を交付したことは当事者間に争がなく、成立に争のない甲第一号証、原審での証人二瓶幹・控訴人生江喜徳の各供述及び本件弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を認定することができる。

すなわち、被控訴人は、控訴人生江喜徳・生江喜平両名を連帯債務者、控訴人佐藤政春・佐藤重千代両名を連帯保証人として、昭和三一年五月二六日右交付した二〇万円に同日から同年一一月一九日までの利息として金五五、〇〇〇円を加算して元本額を二五五、〇〇〇円とし、これを同年五月三〇日三、〇〇〇円、同年六月から同年一〇月まで毎月三〇日各九、〇〇〇円、同年一一月一九日二〇七、〇〇〇円、以上七回に分割して弁済すること、もし控訴人ら債務者が一回でも右割賦金の弁済を怠つたときは、期限の利益を失い、残額に対し年一割八分の割合による損害金を付加して支払うことの取決めをしたこと、控訴人らは、同年七月までの割賦金を弁済したが、同年八月分の割賦金を弁済しなかつたこと、以上の事実を認定することができる。

してみると、右契約で交付した二〇万円に利息五五、〇〇〇円を加算し、元本額を二五五、〇〇〇円としたことは、結局被控訴人が控訴人らに金員を貸与するに当り、元本二五五、〇〇〇円のうちから五五、〇〇〇円を利息として天引したと同じわけであり、右加算利息は利息制限法所定の利率をこえることが算数上明らかであるから、本件貸金については同法第二条の適用があるといわなければならない。

そうすると先ず、受領額二〇万円に対する適正利息を計算しなければないのであるが、分割金のうちどの口が右二〇万円に該当するか明らかな場合は、これによつて右二〇万円を確定することができるわけである。しかし、本件ではどの分割金が右二〇万円に該当するか、またどの分割金が五五、〇〇〇円に該当するのか、明らかでないから、各分割金額に対応する受領金額を貨借名義額二五五、〇〇〇円に対する受領金額二〇〇、〇〇〇円の比率により算出し、これを元本として年一割八歩の利率による金員受領の日から各弁済期日までの金額を求めるほかない。

以上を計算に移すと次のとおりである。

表〈省略〉

したがつて、五五、〇〇〇円のうち右適正利息一五、九四〇円三六銭を超える金三九、〇五九円六四銭は元本二五五、〇〇〇円の支払に充てたものとみなされるのである。

二五五、〇〇〇円は、前記のとおり分割弁済の約束で、その弁済期を異にするから、右超過金三九、〇五九円六四銭は、どの口の分割金の支払に充てたものとみなされるのかという問題が生ずる。利息制限法は、この点について何ら規定するところがないから、右超過金は、各分割支払の金額に按分して、右分割金の支払に充てたものとみなされると解することもできようし、また民法四八九条三号、四九一条二項の律意にしたがい、先ず弁済期の至るべき分割金の支払に充てたものとみなされると解することもできよう。しかし利息制限法は、超過部分を元金の支払に充てたものとみなすだけであつて、当事者の約定した弁済期の点にまで干渉するものとは解されないから、超過部分は、弁済期の最もおそく到来する分割金から順次にさかのぼつて、その分割金の支払に充てたものとみなされるものと解するのか正当であると考える。すなわち本件では、右超過金額は、最後に弁済期の到来する分割金二〇七、〇〇〇円の支払に充てたものとみなされるのであるから、右分割金残額は、一六七、九四〇円三六銭となる。

そして、控訴人らが前示契約による昭和三一年七月までの割賦金を支払つたこと及び同年八月三〇日に支払うべき割賦金を支払わなかつたことは前認定のとおりであるから、控訴人らは同日の経過とともに分割弁済の利益を失い、連帯して被控訴人に対し残存債務額一九四、九四〇円三六銭及びこれに対する同月三一日から完済まで年一割八分の割合による損害金の支払義務があるといわなければならない。

(二)  控訴人らは被控訴人に対し、利息として、(イ)昭和三一年五月三〇日三、〇〇〇円、(ロ)同年六月三〇日九、〇〇〇円、(八)同七月三一日九、〇〇〇円、(ニ)同年一一月二日四、〇〇〇円、(ホ)同年一二月一〇日九、〇〇〇円を支払つた旨主張し、右金員が支払われたことは当事者間に争がないのであるが、全証拠によるも右金員が利息として支払われたと認めることはできない。かえつて成立に争のない乙第一号証、原審での証人二瓶幹及び控訴人生江喜徳の各供述、本件弁論の全趣旨によると、右(イ)・(ロ)・(ハ)の金員は前認定の割賦金の支払にあてられたものであり、右(二)の金員は控訴人生江喜徳が同年一一月二日損害金にあて支払い、右(ホ)の金員は同控訴人が同年一二月一〇日元本にあて支払つたものであることが認められる。

したがつて、右(ニ)の四、〇〇〇円は損害金に充当すべく、右金額は一九四、九四〇円三六銭に対する昭和三一年八月三一日から同年一〇月一〇日までの年一割八分の割合による損害金に相当するしまた右(ホ)の九、〇〇〇円は元金に充当されるのであるから、控訴人らは連帯して被控訴人に対し金一八五、九四〇円三六銭及びこれに対する同年一二月一一日から完済に至るまで年一割八分の割合による損害金並びに金一九四、九四〇円三六銭に対する同年一〇月一一日から同年一二月一〇日までの年一割八分の割合による損害金の支払義務があるものといわなければならない。

(三)  控訴人らは、本件貸金債務については債権額に数倍する価額の物件に抵当権を設定してあり、抵当権を実行する前には強制執行が許されないから本訴請求は失当である旨主張するが、抵当権付債権者は必ず抵当権を実行し目的不動産により弁済を受けなければならないものではなく、抵当権を実行しないで債務者に対し債権を行使することはもとより妨げないのであるから、右は、主張自体理由がない。

(四)  以上の次第で、被控訴人の本訴請求は(二)に認定した限度で正当であるから、これを認容すべきも、その余は失当であるから、これを棄却すべきである。

右の認定と異なる原判決は一部失当であるから、原判決はこれを右認定のとおり変更すべきものとし、訴訟費用の負担につき民訴法第九六条・八九条・九二条・九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 斎藤規矩三 羽染徳次 佐藤幸太郎)

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